葉祥明美術館は、絵本作家・画家・詩人でもある葉 祥明(ようしょうめい)氏の作品が展示されている美術館です。“一冊の美しい絵本”をイメージして建てられた美術館と庭園には、絵本をはじめ、水彩画、油彩画、デッサンなどの原画約80点が常時展示されています。あじさい寺として有名な「明月院」にほど近い場所にあるので、お寺巡りがてら訪れるのもおすすめです。今回は葉祥明美術館の見どころや人気の展示、周辺のお食事スポットを紹介します。
葉祥明美術館とは?
1991年に開館した葉祥明美術館は、葉氏自らがイメージした設計案をもとに造られた英国風デザインの美術館です。館内1階にはミュージアムショップや企画展示の部屋、油絵の部屋、2階にはお父さん・クロードくん・リラちゃんの部屋など、葉氏の詩を集めた言葉の部屋があります。
ちなみに葉氏は1946年の7月7日、熊本市で生まれました。代表作は、絵本のデビュー作『ぼくのべんちにしろいとり』や、平和へのメッセージが込められた『地雷ではなく花をください』などが有名。熊本城近くで育った葉氏は、父親に連れられて行った阿蘇で見たダイナミックな草原の風景に感動を覚え、それが原風景となり今の絵につながっています。
1977年にサンリオから発行された月刊誌『詩とメルヘン』の編集長であった故・やなせたかし氏の依頼により、作品の掲載をスタート。『詩とメルヘン』は、素人である一般の読者が投稿した詩や童話に、プロの絵描きが絵をつけるという何とも贅沢な編集が特徴でした。
葉氏は月刊誌のように依頼を受けて描く作品と、自分が描きたいから描く作品の両方を手掛けてきました。葉祥明美術館では『詩とメルヘン』の世界観とは違う自由に描かれた作品も多く展示されているので、違いを見比べてみるといいでしょう。
葉祥明美術館の見どころは?展示エリアごとの魅力を紹介
心躍るメルヘンチックな雰囲気に浸れる葉祥明美術館。展示は1時間ほどで回れますが、居心地の良さから2〜3時間かけてじっくり楽しむ人もいるそうです。
入口近くのミュージアムショップは無料で入れますが、その奥の企画展示室などに入るには、入館料(大人600円、小・中学生300円)が必要となります。
・絵本の世界のような外観に癒やされる
明月院へと続く通りを歩いていると、左手に見えるひときわ目立つ洋風の建物が葉祥明美術館です。美しい門から中に入ると、5本のモミジバフウ(紅葉葉楓)が訪れる人を迎えます。秋ごろになると美しい紅葉が見られますよ。
絵本から飛び出してきたかのような雰囲気に、多くの人が足を止めて写真を撮る空間です。
前庭にはベンチが置かれ、葉氏の作品やキャラクターと一緒に記念撮影できるスペースもあります。このほかにも玄関口には、絵本でおなじみの白い犬・ジューク君の小屋もあり、遊び心がいっぱいの展示を楽しめます。
4月下旬〜5月ごろに訪れるバラの季節には、ベンチの後ろの壁にハート型に咲いたバラの花々と一緒に写真が撮れますよ。ちなみにハート型のバラの下に咲いているのは「アンネのバラ」。
『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクの父親オットー・フランクが、生前にアンネがバラを好んでいたため、新種のバラを作ってもらい誕生したのが「アンネのバラ」です。平和への願いが込められたバラと一緒に、記念撮影をしてもいいですね。
同美術館には、毛並みのきれいな名物猫の絵夢ちゃんがいます。訪れた時は自由に歩き回っていましたが、すぐにどこかへ行ってしまいました。運が良ければ、まったり過ごしている絵夢ちゃんの姿が見られるかもしれません。
・思わずくつろぎたくなる「企画展示室」
それではさっそく、美術館の中に入ってみましょう。最初に訪れたのは、1階の企画展示室。中央にはテーブルとソファーが置かれ、テーブルの上には絵本がたくさん展示されています。
「友人の家に遊びにいくような感覚でリラックスしてほしい」という思いでつくられた美術館だけあり、ゆったりくつろげる雰囲気です。ちなみに左のテーブルの下に置かれたノートは、すべて来館した人たちが書いた感想ノート。自由に書けるので、来館の思い出づくりにいいですね。
こちらの企画展示室は、7,000点を超える葉氏の作品の中から、企画に合った作品を展示する部屋。訪れた時には、企画展「YOH Shomei 詩とメルヘンの世界 いちごえほんも」が開催され、『詩とメルヘン』や『いちごえほん』に掲載された作品が展示されていました。
中でもジェイクの青いタオルは、百貨店で陳列しようと店員さんが段ボールを開けた途端に、購入希望者が手に取ってしまうほどの人気ぶりだったそうです。
館長さんによると、訪れた際にぜひ手にとって欲しいのは、葉氏のお気に入りの作品でもある『イルカの星』と、葉氏が最初に手掛けた絵本であり、ジェイクシリーズ最初の作品『ぼくの べんちに しろいとり』なのだそう。どちらも美しい絵と、心温まるメッセージを感じられるストーリーとなっています。
・美しい世界に浸れる「油絵の部屋」
「油絵の部屋」には、葉氏が描いた油絵が展示されています。葉氏にとって油絵は特別なもので、自分の内面や哲学、思想を表現する手段だったとか。そのためか『詩とメルヘン』のように依頼されて描いた作品とは違う、独特の世界観が垣間見られます。
少しダークな雰囲気の作品が多く、見応えは抜群。深い芸術性と葉氏の思考の深さが感じられる空間です。
ちなみに葉氏は自由をとても大切にしていて、「孤独でいることは寂しいことではなく、本来人は孤独なものだから、それを友だちにしたい」という考え方の持ち主。だからこそ生まれる世界観は、一見孤独な雰囲気を纏いながらも、どこか自由さを感じさせてくれます。
とくに興味深かった作品は、「聖なる行進」。ほかの油絵とは違い、柔らかく明るい色調が特徴です。中央に道のように見えるのは人が行進する姿で、うっすらと見える赤い太陽に向かって行進している様子が描かれています。
葉氏によると、これは「宗教画」なのだそう。葉氏の意外な作品の数々を楽しめる空間です。
・ユニークな作品が並ぶ階段周辺も要チェック
2階へ続く階段には、企画展に連動した作品が展示されています。どれも見ていると明るい気持ちになる作品ばかり。高い窓から日差しが入り、とても気持ちいい空間でした。
中には葉氏の世界観が分かる「孤独」という詩も飾られていたので、ぜひ見てみてください。孤独に押しつぶされそうなときほど、勇気をもらえると思いますよ。
このほかの詩や書物にも、生き方に迷った時の助けになるような言葉が散りばめられています。心が弱った時や、迷いがある時など、やりたいことに全力で取り組んでいるからこそ抱く悩みや葛藤がある人にとって、励みになる言葉が得られるはずです。
階段を上がると、ソファが置かれたくつろげるスペースが広がります。ここにも絵本や感想ノートが置かれていました。
ノートには多くの感想が寄せられ、「心の重荷が軽くなりました」「前向きになれました」など、美術館を訪れたことで心の変化があった人も多くいることがわかります。
階段横には人物画も展示されています。もともとは人物画を描くことから始めたという葉氏。しかし次第に、絵本の絵や風景画を描くことが多くなりました。本人は「またいずれたくさん描きたい」と思っているそうです。
ちなみに人物画「RILA」は、りみという名の奥様を描いた作品。RILAは、りみのRIと、ララという愛犬の名前から取られています。
・落ち着いた雰囲気の「お父さんの書斎」
階段を上がってすぐの部屋が「お父さんの書斎」。静かで落ち着いた雰囲気の室内には、葉氏が描いたデッサン画が飾られています。デッサンは葉氏にとって「描くことの歓びの原点」なのだとか。本当に描くことが好きな葉氏の姿と生活を感じられる空間です。
ガラス棚には葉氏のコレクションを展示。作品の中に動物が出てくるたびに、さまざまな資料を読み研究していたそうです。動物たちの絵本や、葉氏が好きだったポップアップ絵本などが展示されています。
・5歳の少年の世界観が詰まった「クロウドの部屋」
お父さんの書斎の隣には、小さな男の子の部屋をイメージした「クロウドの部屋」があります。男の子の部屋だけあって船の模型が置かれるなど、ほかの部屋とはまったく違う雰囲気。棚の中には、ぬいぐるみやおもちゃが展示されています。
展示は企画展の内容によって変わります。訪れた時は『いちごえほん』や『詩とメルヘン』に掲載された絵本作品『星の王子さまがもどってきた』の絵と文が並んでいました。違う棚には猫好きな葉氏が選んだ猫の絵本のコレクションも!猫好きにはたまらない空間です。
・10歳の少女の世界観に触れる「リラの部屋」
「リラの部屋」は、まさにメルヘンの世界。かわいらしい女の子の部屋をイメージした空間となっています。こちらの展示も企画展の内容に合わせて定期的に作品が変わるそうです。
黄色い花が美しい『小さな花のメロディ』など、部屋の雰囲気に合った作品やインテリア雑貨が飾られています。別の壁には直筆の詩も展示されており、心を解放してくつろいでほしいと願う葉氏の心遣いが感じられる空間となっています。
・葉氏直筆の貴重な詩が並ぶ「言葉の部屋」
「言葉の部屋」には、葉氏が書いた直筆の詩が展示されています。葉氏にとって詩は「何より大切なもの」であり、自分らしく生きるために必要なもの。創作するうえでも詩の役割はとても重要で、表現のはじめには必ず「詩」があるそうです。
葉氏は詩を思いつくと、レシートの裏などどこにでもメモをしていくそうです。そして人に見せるために清書をする際は、紙巻鉛筆を使い「まるで絵を描くように」記していくと館長さんが教えてくれました。
廊下にも葉氏の詩がずらりと並んでいます。小説『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(著者/リリー・フランキー)に引用された有名な詩「母親というものは」も展示されていました。