【PEOPLE vol.1】村松栄理さん/ちいさな硝子の本の博物館

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さまざまな遊びを提供している方々に、その体験への思いや体験の醍醐味をお聞きする【asoview!PEOPLE】。第1回目は「ちいさな硝子の本の博物館」で、ガラスに模様を彫る“リューター体験”を運営されている村松さんにインタビューしました。

■profile

村松栄理(むらまつえり)

 新潟生まれの千葉育ち。浅草から吾妻橋を渡ってすぐの墨田区で、ガラス製品の販売やガラス加工体験の提供をしている「ちいさな硝子の本の博物館」の館長。小中高は千葉県の学校に通い、大学は多摩美術大学の絵画学科に進学する。ものづくりに関係する仕事につきたいと思いながらも就職に悩み、興味のあったアクセサリーパーツを売るショップに就職。社会人4年目に、老舗のガラス工房である「松徳硝子」を営む父から「ガラスのお店をやらないか」と声をかけられて現在の店舗を開店。父の工場や知り合いのガラス工場からデッドストックを買い取り、そこに好きな絵を彫る「リューター体験」を提供している。そのほか、アクセサリー作家さんの作品や数に限りがある貴重なガラス製品などを販売。

 

「ガラスに興味がない人にも来てもらえる教室に」お店をはじめてから今まで

ちいさな水色の看板が目印。

 お店をオープンしたのは2011年の12月。最初は初めてお店をやるので、どうしよう…と思っていて。黙って待っていてもお客さんは来ないし、何かやらなきゃ、という思いがありました。そんなときに助けてくれたのが、周りにいるものづくりの先輩たちです。

笑顔がこぼれるえりさん。

 墨田区は同世代でお店をやっている人が多くて、すぐ近くにオーダーメイドの革製品を制作している職人さんがいらっしゃいます。その方がワークショップをやり始めたらすごく反響があったみたいで。それで、「ガラスでも何かやってみろ!」ってアドバイスをいただいて、じゃあちょっとやってみようかなぁと。

素敵なガラス作品が並び、体験後に買うこともできる。

 当時はそんなにワークショップをやっているお店がなかったので、知り合いの方たちにお客さんとして体験に来てもらって、試行錯誤しながら運営していました。そのうち、ブログやオンライン予約もスタートしてぽつぽつと予約が入るように。今思うと、最初の方に来ていただいた方には申し訳なかったな。その頃は作品作りをうまくフォローできていなかったんです。たくさんの方に来ていただいて教えているうちに、自分も少しずつ教え方を勉強していったという感じです。自分自身もお客さんとして体験教室に通ったこともありました。楽しかったと思える体験はどんな特徴があるかな?と考えて。そうやって自分自身が体験する側になってみて感じたのが「忙しくても、流れ作業にならないように」ということ。

リューターという機械を使ってガラスに模様をつけていく。

 予約がたくさん入ってキャパオーバーになると、「とにかくお客さんを回さなきゃ」という思考になってしまったり、疲れて気が抜けてしまったりすることもありますが、来てくれる方にはとっては一回きりだし、それが一生に一度の体験になるかもしれない。「来ていただく方に満足して帰っていただくこと」が体験を提供するうえでのマイルールになっています。

店内には掘り出し物のガラス製品がたくさん。大量生産ではなく数が限られた貴重なもの。

 あとは、満足する体験とは何か?を考えるうちに、お客さんの中には下書きに何を書いたらいいか全く分からないという人もたくさんいると気がつきました。私は絵を書くのが好きなので、ガラスに彫るデザインに悩むという発想がなかったんです。

「満足して帰っていただく」がマイルール。

 そこから下絵の見本となる絵を色々と用意するようになったんですね。自分で書けるような方にはあまり口を挟まないようにしつつ、手が止まっている方には「こういう構図がいいですよ」と声をかけたりして、それぞれの方が楽しめるように関わり方を変えるようにしています。

 

墨田区は人との距離感がちょうどいい町。

吾妻橋から見る隅田川。

 墨田区にお店を構えて、自然と周りの人とのつながりができました。墨田区自体が「ものづくりの町」だということもあって、区役所の産業振興課の方が色んなお店の方を紹介してくれます。そのほかにも、近くにあるカフェのマスターが、「それやるんだったら、あの人紹介してあげるよ!」と言ってくれたり、自然に繋げてくれる人がたくさんいらっしゃいます。区役所がやっている活動で「すみだ3M運動」という伝統工芸をメインとしたものづくりをPRする活動があるんですが、うちはガラスに関する本が読める資料館ということで、街角の「小さな博物館」として認定をいただいていて、区が発行するマップにも載せていただいています。その過程で博物館同士のつながりもできました。

スミファの活動について説明してくれました。

 そのほかには、工場を経営されている方が自分たちで立ち上げた「スミファ」という活動もあります。こちらは一般の人にも工場の様子を知っていただける機会を作ろう!ということで普段は公開していない工場でもワークショップを開催していたりしています。この活動で、革とか金属とか印刷屋さんとか、普段関わりがない事業者同士もつながることができました。

スミファ限定で販売したウレタンケースは、閉じるとリンゴ型に。

 たとえば、以前のスミファのイベントでリンゴ形のガラスのはんこを作るワークショップを計画した時があったのですが、ウレタンを専門で加工する工場の方が「ガラスのはんこにぴったりのケースを作ってあげるよ!」と声をかけてくださって。そしたら、金属工場の方が、りんごの葉っぱを象った飾りを真鍮で作るよと言ってくださり、3社のコラボでワークショップをすることになりました。全てのワークショップに参加すると1セットの作品が完成する、という仕組みにして。そういう活動をしていくなかで、違う業界の方とのつながりも深くなっています。
 

編集後記:やさしさが溢れた、みんなが集まる場所

スカイツリーと日が落ちたばかりの墨田区。

 扉を開けた瞬間にアットホームな雰囲気が漂う「ちいさな硝子の本の博物館」。インタビュー中もお友達やご近所さんが何度も訪ねていらっしゃって、本当に地域の方との結びつきが強いのだなと感じました。差し入れを片手にお店を覗きにいらっしゃる方、お友達を連れてきてガラスの良さを熱心に説明されていた常連のお客さん……いろんな方に愛されているお店だと思いました。体験時間は1時間ほどですが、「レザークラフトが作れるお店も近くにありますよ」「カフェがおすすめですよ」と情報のおみやげをたくさん持たせてくれることも魅力的でした。

 

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