アソビューでは体験を提供してくれている店舗(または店舗スタッフの方)を“パートナー”さんと呼んでいます。全国5000近いパートナーさんの中でも、もっとも長いお付き合いをしている方のひとりが「ネイチャー・ナビゲーター」のタチさんこと竪村浩一さん。実はアソビューメンバーの中にも「タチさんファン」がとても多いのですが、そんな彼の魅力はいったいどこにあるのでしょうか?(文:はらだいち / アソビュー編集長|読了時間約4分)
ラフティングの第一人者
タチさんが代表を務める「ネイチャー・ナビゲーター」は群馬県のみなかみ(水上)に本拠地を構えるアウトドアツアーショップで、ラフティングをはじめとしたリバーアクティビティを20年以上も提供し続けています。
みなかみが「ラフティングの聖地」とも呼ばれるようになり同業他社も増えましたが、タチさんが創業当初から「当たり前のこと」としているのが安全性。「22年目になる今まで無事故(保険対応事故ゼロ)」という事実もタチさんにとっては当たり前のことなのかもしれませんが、客観的に見れば「ネイチャー・ナビゲーターだからこその特長」といえるでしょう。
拭えない、ニュージーランドの記憶
タチさんは26歳の時にそれまで勤めていた会社を辞め、ワーキングホリデーでニュージーランドに行きました。水泳のコーチや土産店のレジなど、いろいろな仕事を経て、ひょんなことからラフティングガイドという職業に辿り着きます。
ワーキングホリデーの期間が過ぎると、働いていた会社にそのまま入社。いったん帰国して労働ビザを取得し、ニュージーランドでラフティングガイドとして働き続けました。
ラフティングガイドを天職と感じはじめたちょうどそのころ、他の会社が起こした水難事故の現場を目撃します。
タチさんの操るボートがいつものように激流を下っていると、前を進んでいた別会社のボートが転覆事故を起こしました。タチさんはゲストの安全を確保した後に急いで救護に向かいましたが、状況は緊迫していました。
「水の中に女性がいて、浮かんでこない!」
まだそれほど英語が堪能でなかったタチさんは、救護活動の最前線には加わらず最も下流のポイントで「万が一“何か”が流れてきたら、それをピックアップする最後のひとり」という役割を任されました。つまり動かないですむことを願うポジションなのですが、その願いは残念ながら叶いませんでした。
何よりも衝撃的だったのは、死亡事故を起こしたお店が次の日も普通に営業をしていたことでした。「ラフティングはそもそも危険と隣り合わせなものだし、だからこそ事前にサインをしてもらっているんだ」という理由です。
ニュージーランドはアウトドアレジャーの先進国。それぐらいの割り切り方をしないとビジネスにならないのかもしれません。ただタチさんは「何というか、違和感がありました。腕に残るあの感覚が忘れられないんです」。
これを境にタチさんは「自分がスキルを上げなければならない」と一念発起。技術を磨き、勉強をし、体力をつけました。自分の力で事故を防ぐことができるようになるために。
「日本にラフティングを持ち帰ったとしても、ニュージーランドの割り切り方は絶対にフィットしないと思っていました。事前に言わなきゃいけないこともあるし、サインをしてもらう必要もあるけれど、それが現実になってはダメなんです」
「笑って帰ってもらうこと」だけに向き合えるのがプロ
帰国後、みなかみに「ネイチャー・ナビゲーター」を立ち上げたタチさんが、大前提として掲げたのが″SAFETY"です。
「みなかみまでラフティングに来てくれるゲストは、いろいろなことを調整してやっとここに来てくれていると思うんです。だから笑って帰ってもらいたいんですよね。自分のテクニックを披露したがるリバーガイドも多いけれど、向き合うべきなのはゲストを笑顔にすることと、その笑顔を絶やさないまま帰ってもらうことだけなんです」
とはいえ、ラフティングは危険を楽しむ遊びであることも事実です。
「正直に言うとギリギリセーフ、ということは過去にありました。でもその時に大切なのはガイドの僕らが焦らないこと。ゲストを不安にさせますからね。ギリギリのところでも笑顔で、あたかもそれも意図的な演出であるかのように見せるには、かなり高いスキルが必要になるんです」
「年4回、俺んところ来い(笑)」
これまでのエピソードだと、タチさんは「何だかカタい人…?」という印象を受けるかもしれませんが、残念ながらカタいのは安全面ぐらいで、他の面は残念ながら!? あまりにもフランクで、あまりにも豪快で、あまりにも魅力的です。そのギャップがアソビューのメンバーに限らず、関わった人々をトリコにしてしまう一因なのかもしれません。
「『みなかみに来ると、気分が落ち着く』と言ってくれる人が多いですが、人間も動物なので自然が落ち着くのは当たり前のことなんですよね」
「日本には四季があるので、その恩恵を最大限に受けないと! 春にはラフティングをやって、夏にはキャニオニングで涼をとって、秋には紅葉に囲まれた湖でカヌーを漕いで、冬はスノーシューをして。旬のアウトドアを続けてできるなんて、最高じゃないですか」
「ゲストにとっての″人生のリズム”でありたいと思っています。『季節を感じに、みなかみのタチに会いに行こう』って思ってもらえたら最高。待っててもダメだからツアーに参加してくれたゲストには『年に4回、俺んところ来い(笑)』と強めに言ってますけどね」
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