クロアチア経由でスロヴェニアへ
夏休みの初日、成田からクロアチアの首都ザグレブ(ザブレブとも)に向かいました。2017年8月現在、日本からクロアチアには直行便が飛んでとんでおらず、いずれかの国を経由することになります。
優先することによって最適な航空会社は異なりますが、サラリーマンにとって連休は貴重なので、私は所要時間を最優先にして便を決定しています。クロアチアに行く際には私はオーストリア航空を使ってオーストリアの首都であるウィーンを経由してザブレブに向かいました。ウィーン経由は距離的にも無駄がないことに加えて、ウィーン空港はターミナルの移動にバスや港内列車が不要で、すべて徒歩で移動できることから世界最短の30分で乗り継ぎが可能であることも、時間がないサラリーマンにとっては魅力です。
なお、オーストリア航空は一時的に日本便から撤退していますが、2018年5月に再度運航を開始することが発表されています。2017年の夏休みにクロアチアを訪れる場合は、オーストリア航空は選択出来ませんが、ルフトハンザ航空(15時間程度)、エールフランス(16時間)、スイスインターナショナルエアライン(18時間程度)の所要時間が短いのでおすすめです。
ザグレブには夜8時に到着し、空港のATMで1,000クーナをキャッシングしてから、空港内のモバイルショップでT-Mobile社のSIMカードを購入し、通信を確保しGoogle Mapsによるカーナビを使えるようにした上で、小型のレンタカーをAvant carで借りて市内のホテル「Best Western Premier Hotel Astoria」に向かいました。
私はだいたい1泊あたり1万円を上限としてホテルを決定することが多いのですが、過去の経験上から1泊目でケチると、フロントの対応が極端に悪かったり、駐車場に問題があったり、部屋が汚くて寝られないなどの問題に遭遇して、心理面でも大きな影響を受けるので、1泊目だけは通常よりはいいホテルにすることが多いです。
空港を出発したときには既に真っ暗でしたが、街灯も十分で道も広く整備されていたため、不安無く到着できました。一旦ホテル前に車をとめて、フロントで駐車場の場所を聞いて、裏手の駐車場に駐車してチェックイン。とても美しいお部屋に荷物をおいて、ホテルを出て徒歩で近くのファーストフード店でハンバーガーを食べて、時差の影響を少しでも軽減するために、すぐに就寝しました。
翌朝、ホテルで朝食をとってすぐ、クロアチアの北にある隣国スロベニアに向けて出発しました。スロベニアに最初の絶景ポイントであるブレッド湖があり、ザブレブからは国境通過にかかる時間をのぞけば車で約2時間の距離です。スロベニアに向かうのであれば、成田からクロアチアではなくスロベニアに向かえば良いと思われるかもしれませんが、天気予報では直前まで晴れの予報と雨の予報がコロコロと入れ替わっていたので、スロベニアに向かうかどうかはクロアチアに到着したその日に決める予定にしていました。
私は撮影にあたっては天気を最優先にしているため、撮影旅行の際には初日と最終日の宿だけ予約して、残りは天気予報次第で訪問先を決めて前日か当日に宿を予約します。レンタカーがあれば宿は都市部にある必要はなく、ヨーロッパであれば都市部近郊まで含めればどこにも泊まる場所がないという事態に遭遇することは極めて稀です。
この時にもブレッド湖の天気予報が雨天または曇天のままであれば、ブレッド湖の撮影は放棄して、ザブレブから南下して、第2の撮影ポイントであるプリトヴィツェ湖群国立公園に向かう予定でいました。幸いブレッド湖の天気予報が当日と翌日どちらも晴時々曇りになったため、ブレッド湖から車で15分ほどのホテルを予約し、ブレッド湖に向かうことにしたのです。
海外でレンタカーというと経験がないうちは怖いイメージがあるかもしれませんが、ヨーロッパの国々は走りやすい国が多く、私にとっては首都高の方がずっと怖くて分かりにくいです。今回訪問した国々も本当に運転しやすく、私が訪問した先では全て英語も通じたので、安心です。ただし保険は必ず「フルカバー」を選択しましょう。高くつくことが多いですが、何かが起きた時にカバー範囲なのかどうかを気にする必要もなく、交渉も不要なので、時短の観点からもコストに見合った価値があります。これはクロアチアに限らず、どの国でレンタカーを借りても同じ事です。
また欧州の場合、越境することも多いと思いますが、越境オプションが必要な場合もあり、先方の質問の意味がわからない、あるいは聴き逃してしまったときのために、自分の行き先は自分から述べてしまうのが良いでしょう。その他、オートマは予約しないと在庫が切れることもあるので、必要な方はWEBで予約をしておくと良いです。
クロアチアはEU加盟国ですが、2017年7月現在でもシェンゲン条約に加盟していないため、スロベニアのオブレジェ(Obrežje)という町にある国境を通過する際には料金所のような場所でパスポートチェックがあります。このため国境では渋滞が発生するので、平日であっても1時間くらいは余裕をもって移動すると良いでしょう。
気を取り直して、オブレジェ(Obrežje)の国境を越えて、1時間ほど走ってスロベニアの首都のリュブリャナに立ち寄り、有名な絶景レストラン「Nebotičnik - Skyscraper」でケーキセットを頂きました。リュブリャナは市街地も込み入っておらず、静かで美しい街並みが印象的です。その後、リュブリャナからさらに30分走って午後2時過ぎにブレッド湖に到着しました。
世界屈指の絶景「ブレッド湖」
ブレッド湖はヨーロッパに留まらず全世界の中でも屈指の絶景であり、世界中から観光客が訪れます。この日もブレッド湖に近づくと渋滞に巻き込まれました。撮影ポイントは「Mala Osojnica」という山頂で事前にGoogle Mapsで目星をつけていましたが、そこに辿り着くための情報が集まりきらず、現地の観光案内所に聞く予定にしていたため、撮影ポイント近くに直行せず、観光案内所に向かうことにしました。
観光案内所も大混雑で、30分待ってようやく係の方とお話しすることができ、登山道の入り口を教えて貰えました。ブレッド湖は湖畔から見ても十分に美しく、湖畔から見える湖上の教会(Pilgrimage Church of the Assumption of Maria)の美しさには感動します。また、ブレッド湖を俯瞰できるブレッド城からの景観が有名です。しかし、私はブレッド湖、教会、ブレッド城全てを俯瞰できるMala Osojnicaから撮影する構図こそが最も美しいと考え、その構図が撮影出来る山頂を目指しました。
大渋滞や観光案内所への出入りで時間をとられてしまい、Mala Osojnicaに通じる登山道に付いたときには既に夕方4時近くになってしまっていました。登山道の入り口には左側に「6 Osojnica」右側に「6 Ojstrica」と書かれた標識があります。Google Maps上では右側に進んでしまうと、もう一つの山頂であるOjstricaにしかたどり着けません。
そこで標識のとおり、Google Mapsを信じて左側のルートを進むことにしました。このルートは思ったよりもワイルドで、すでに日陰になっていたことも相まって道がどこなのか分かりにくい箇所がいくつもあり、この時には人とのすれ違いもないまま進んでいき、ついに細い道に倒木があり乗り越えていかないと通れないポイントにつきました。このポイントから見えたブレッド湖はたしかにこの上にMala Osojnicaがあると確信できるものでしたので葛藤はありましたが、安全最優先でこの日は撤収することにしました。
湖畔の街に戻り、レストランやカフェのスタッフにヒアリングをしていると、Mala Osojnicaに直行する登山道は分かりにくいので、遠回りになるが、Ojstricaというもう一つの山頂を経由していく方が分かりやすいということが分かりました。Google Mapsを見せたところ、この地図では確かに道は繋がっていないが、実際には道が存在するとのこと。こうした情報は現地でないと手に入りにくいです。
ヒアリングの合間に見えた夜のブレッド湖の街並みも美しかったのですが、Mala Osojnicaの撮影が目的なので、数枚夜景を撮影してホテルHotel Krekに移動し、明日に備えて撮影道具をクリーニングして早めに就寝しました。なお、ホテルが安いと埃っぽくてクリーニングがはかどらないこともあります。そういう意味で、ルームシェアやドミトリーといった自分で環境を落ち着けられない宿泊形態の宿は避けた方が安全です。
なお、就寝前の時点で望遠レンズは不要と考え、リュックの徹底的な軽量化を図り、広角ズーム、単焦点1本、折りたたみ三脚、お水、レンズフィルター類、モバイルバッテリーのみという最小限の撮影機材のみをリュックに入れました。
長い旅は、前半戦で疲労を感じてはならないというのが鉄則です。また明日は、下山後に3時間以上のドライブが待っており、ドライブ中に疲労を感じないようにより一層の体調管理が求められます。100グラムの違いであっても、距離や時間の積み重ねで心身にボディブローのように効いてきます。私はトレーニングをしているわけではないし、通常よりはむしろ体力が少ない方だと思っていますので、そのように思っていた方が疲労に対する警戒心が解けず良いです。
いざ、撮影スタート!
翌朝に再び登山口に到着すると、Ojstricaの標識を確認して進みました。30分ほどでOjstricaに到着し、そちらも素晴らしい景観でしたが、手前に木々が映り込んでしまうため、写真全体が窮屈になり、ブレッド湖の美しい形もよく分からないように感じました。Ojstricaでの撮影は10分ほどで引き上げ、今回の撮影の旅の第一目的地であるMala Osojnicaに向かいました。
Mala Osojnicaへの道は事前の情報の通りやや分かりにくいものの、昨日の登山道よりもずっとましで、多少迷うことも計算にいれても30分ほどで到着できると思います。私は午前9時には到着し、世界屈指の景観が目の前に広がりました。
エメラルドの水をたたえるブレッド湖は美しい山と森に囲まれるように位置し、その中央の小さな島に教会があります。静かにしていると湖上でボートを漕ぐ人々の楽しそうな声や、教会で結婚式を挙げる新郎新婦や親族・友人達の声が聞こえてきます。
そして湖面には空にある大きく速度の速い雲の影が湖面の表情に動きを与えて、1秒ごとに印象が異なる景観を作りだしていきます。この雲の形と雲が作る陰影の表情こそが、ブレッド湖の美しさに立体感をあたえる極めて重要な要素になってきます。
機材の各種セッティング、構図選択に30分ほどかけて、ファインダーの中の映像が狙った姿になる瞬間をひたすら待ち構えます。この時間の使い方こそが普通の旅行と撮影旅行の最も大きな違いになります。普通の旅行であれば、できるだけ多くの観光名所を効率よく回っていくことが重要になりますが、撮影旅行の場合は、観光名所であっても絶景と呼べない場所には訪れず、絶景と呼べる場所に最短距離で一直線に向かい、できるだけ長い時間撮影ポイントに留まり、必要であれば翌日にも同じ場所に撮影に行きます。
私は良い写真が撮影出来る確率を上げるために、後日破棄する写真が増えてしまうことは一切躊躇せず撮影を続けます。雲の形の変化は予想できないもので、次の1分には今見ている姿を「越えてくるのか」は誰にもわかりませんから、自分の心が反応した瞬間にどんどん撮影をしてきます。これはフィルムカメラでは難しく、デジタルカメラの利点でもあります。
3時間ほど経過したところ、満足のいく写真と動画がとれたので、日焼けによる全身疲労を防ぐ観点からも撤収することにしました。日焼けは体だけではなく、目から入った紫外線も原因になります。必ず紫外線をカットする効果のあるサングラスやコンタクトレンズを使いましょう。日焼けによる疲労、発汗による脱水症状、機材を背負うことによる関節痛は撮影の大敵で、私はそれぞれをある程度は軽減する方法を見つけてきたので、そちらは後日掲載する予定です。
さて、下山道を下っていくと、先ほどの最初の山頂であるOjstricaへの道とは別に右側にかなり急斜面を下っていくルートを見つけました。そう、このルートこそ私が初日に登山を断念したMala Osojnica直行ルートだったのです。たしかに倒木も途中にありましたが、帰り道は日中で明るく、他にも登山客がひと組いたので、足場は悪かったものの、傾斜がきつい以外は特に問題はなく、なんとMala Osojnicaからわずか15分ほどで下山できてしまいました。次に行くことがあればこのルートで登山をしたいと思います。
今回は「たまたま」前日に引き返した道と帰り道が同じだっただけで、違っていた可能性も十分にありましたから前日の判断に後悔はありません。撮影旅行の中では仕事と同じく「機会」と「リスク」を天秤にかけて判断しなければならない場面が多々あります。リスクを十分に見極めた上で、機会を選択することは勇敢なことだと思いますが、リスクを認知せず機会を選択することは無謀です。認知し得ないリスクがあると思った時には、潔く引くのがサラリーマンの撮影旅行を継続できる重要なポイントだと思います。
さて、撮影2日目にして、カレンダーの表紙にできるレベルの写真が撮影できたので、残りの行程はかなり気が楽になりました。モチベーションこそが絶景撮影に求められる最も重要なエネルギーなので、最後まで燃え尽きないように体調管理に加えて心理面での健全性にも心を配りましょう。もちろん最後で燃え尽きてもだめです。撮影最終日が終わり、翌日からの仕事に影響が出るようではサラリーマン失格ですから。
スロベニア(ブレッド湖)編・おわり / 旅のメモ
なお、今回はレンタカーでの移動を前提にしましたが、ブレッド湖へはスロベニアのリビュリャナの空港や駅を含む街中から沢山観光バスが出ています。スロベニアは英語も通じますから、チケットの確保は問題ないでしょう。ツアー型の場合は色々な場所に連れて行ってくれますが、Mala Osojnicaが入っているコースはなかったと思います。なのでツアーバスではなく、往復のバスを使ってブレッド湖の入り口まで移動し、そこから登山口までのバスを使うか徒歩で40分ほど歩けばMala Osojnicaの登山道に到着できます。駐車場の心配がない分、気楽と言えるかもしれません。撮影目的の場合は疲労するため徒歩はおすすめめしません。ただバスを使う場合は、帰りのバスの時間に事前に確認しておきましょう。(次回は8月中旬に配信予定です)
(写真・文=高江 遊)
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