数々の童話を生み出した作家、宮沢賢治の故郷・花巻市は、東北地方でも人気の高い観光地。長い歴史から生まれた文化の香るスポットや、豊かな自然の美しい景観など、多彩な魅力を楽しめる場所です。加えて、花巻市には新幹線の発着駅や空港があり、遠方からのアクセスに便利。市内観光も鉄道やバスが充実しているので、移動しやすい点もポイントです。
そこでこの記事では、花巻市のおすすめ観光スポットを「自然」「宮沢賢治」「歴史・文化」のテーマにわけて紹介します。花巻観光のプラン作りに活用してくださいね。
花巻の自然が育んだ絶景スポットを巡る
花巻市は岩手県のほぼ中央、北上平野に位置し、周囲を奥羽山脈や北上高地の山々に囲まれた自然豊かな街です。その土地柄だけに、市内にいながらにして四季折々の自然を望む絶景スポットが点在。花巻市を訪れたら、大自然を肌で感じてみてください。宮沢賢治も自身の作品に登場させた、美しい景観に出会えますよ。
釜淵の滝
森林に囲まれた「釜淵の滝」。岩盤の中腹にある10個ほどの大きな穴が炊飯釜を連想させるため、また炊飯釜を伏せたような形をしていることから“釜淵”の名称で呼ばれています。高さ8.5m、幅30mの大きな岩の上を水が幾筋にも分かれて流れる様子が印象的。周囲の森は遊歩道が整備されているので、徒歩15~20分ほどで一周できます。森を散策してリフレッシュするにはうってつけのスポットです。
葛丸川渓流
奥羽山脈を水源とする「葛丸川渓流」は、ハイキング、森林浴、釣り、バードウォッチングなどアウトドアを楽しみたい人にぴったりの観光スポットです。一年を通して四季折々の美しい風景を楽しめますが、冬に現れる「たろし滝」は特に見もの。たろし滝とは葛丸川に注ぐ沢の水が凍り、氷柱になったものです。まるで柱のようにそそり立つさまは、大自然の圧倒的な力を感じるでしょう。毎年2月11日に開催される「たろし滝測定会」では、その年の米の出来具合を占います。
七折の滝
鶏頭山(けいとうさん)中腹の高さ50mほどの「七折の滝」は、一風変わった光景を見られるとあって観光客に人気。と言うのも、水が岩や岩壁の間をぶつかり、折れ曲がりながら勢いよく流れるのです。水が真横に流れるさまから、別名「跳ね上がる」「跳ね返る」を意味する「ひょんぐり滝」とも呼ばれています。滝を見学するには、駐車場のある「岳(たけ)」から登山道に入ります。 履き慣れた靴と、体温調節のしやすい服装で出かけましょう。
田瀬湖
早池峰(はやちね)山麓を源流とする清流・猿ケ石川をせき止めた人造湖が田瀬湖です。森林に囲まれ、カヌーやヨットなどのウォータースポーツ、キャンプなどを楽しむために多くの人々が訪れます。毎年7月下旬に開催される「田瀬湖湖水まつり」では、約3500発の花火が打ち上げられます。花火が湖面に写る光景は幻想的で、地域の人たちも毎年楽しみにしているイベントです。初夏に咲き乱れるあやめの花や秋の紅葉、冬は雪で覆われた銀世界など季節によって表情を変える姿も魅力です。
イギリス海岸
花巻駅から約2km、北上川と猿ヶ石川の合流地点を、地元の人々は「イギリス海岸」と呼んでいます。呼称の由来は、川の水位が下がった時に、川底の泥岩層が姿を現す光景がイギリス・ドーバー海峡の白亜の海岸を思わせることから。宮沢賢治により名付けられました。 現在は北上川のダム整備による河川管理のため、川の水位が下がらず、泥岩層が姿を現すことは少なくなってしまいました。しかし宮沢賢治の命日・9月21日には、ダムの放水量を調整して泥岩層を露出する試みを行い、令和1年は見事に成功。宮沢賢治の心を動かした景色を目にしたい人は、この日に訪れてみるとよいでしょう。
宮沢賢治ゆかりのスポットを巡る
花巻が生んだ文豪・宮沢賢治。独特の世界観を表現した童話や詩は、今でも読む人の心を揺さぶります。彼の生まれ育った花巻市には、宮沢賢治の世界観に触れたり、彼の人生の足跡を学んだりできる多くの施設があります。彼の作品を読んだことのない人も、全国のファンが「聖地」と称えるスポットで、宮沢賢治の哲学や思想に触れてみては。
宮沢賢治記念館
宮沢賢治の世界に浸れる、花巻市胡四王山の「宮沢賢治記念館」。胡四王山は、日蓮宗を信仰した宮沢賢治が、法華経を後世に伝えるべく手帳に記した、岩手県内の32の山々「教理ムベキ山」のひとつです。宮沢賢治記念館では、さまざまな顔を持つ宮沢賢治独自の思想を「科学」、「芸術」、「宇宙」、「宗教」、「農」に分けて解説。例えば、鉱石採集に使用した顕微鏡や愛用したチェロのほか、本人の設計書を基に造った南斜花壇と日時計花壇なども展示し、彼の人間性や哲学をわかりやすく紹介しています。全国から年間20万人以上が訪れる人気の観光スポットです。
宮沢賢治イーハトーブ館
「イーハトーブ」とは、宮沢賢治が岩手の風土をよりどころとしつつ、心の中に描いていた夢の世界のこと。「来訪者がこの夢の世界へ旅に出られるように」との願いから、宮沢賢治の作品や哲学を学べる「宮沢賢治イーハトーブ館」が誕生しました。館内では、宮沢賢治を愛する人々の発表した芸術作品や、研究論文をわかりやすく整理し、誰もが自由に閲覧できます。また宮沢賢治にまつわる講演会や研究発表会、賢治誕生祭でのコンサートなど、さまざまなイベントも開催。
宮沢賢治童話村
宮沢賢治の作品世界を体験できる楽しい施設です。『銀河鉄道の夜』をイメージした入り口「銀河ステーション」など、まるで施設全体がテーマパークのよう。例えば、宮沢賢治が創り出した世界を再現した「賢治の学校」では、あたかも宮沢賢治童話の世界に迷い込んだかのような仕掛けが満載です。ほか、作品に登場する動植物を展示している「賢治の教室」など、様々な角度から代表作をわかりやすく紹介。今まで宮沢賢治を知らなかった人も十分に楽しめます。なお、コロナウイルス感染拡大防止のため、館内ではアルコール消毒を設置し、スタッフ・来場者のマスク着用、検温、アルコール消毒液の清掃などを行っています。
未来都市銀河地球鉄道
花巻駅北側に、高さ10m、長さ80mの大きな壁があります。白い塗料で描かれた宇宙は、特に目立つものではありません。しかし夜になると一変、星々が輝く脇をSL機関車が駆け抜けます。その様子は、まるで宮沢賢治の作品『銀河鉄道の夜』のよう。夜になると光る理由は、ブラックライトを照射すると光るルミライトカラーを使っているためです。ロマンチックな気分を味わいたい人は、ぜひ訪れてみてください。
早池峰と賢治の展示館
平成19年10月にオープン、宮沢賢治作の『猫の事務所』のモデル・旧稗貫(ひえぬき)郡役所を復元した展示館です。写真映えするレトロな外観が魅力的。猫の事務所を再現した館内に足を踏み入れると、猫の事務長の人形が来訪者を出迎えてくれます。ほか、宮沢賢治のさまざまな作品の舞台となった早池峰山に関する展示や、常宿としていた旧石川旅館の部屋の再現など、彼のインスピレーションの源を垣間見ることができます。
なお、コロナウイルス感染拡大防止のため、館内ではソーシャルディスタンス、アルコールの手指消毒と来場者のマスク着用の義務づけ、検温、連絡先の記帳などを行っています。
花巻の歴史や文化にふれるスポット
古縄文時代から花巻の地には人々が暮らし、江戸時代は城下町としてだけでなく、穀倉地帯や軍事上の重要な拠点として栄えました。そのため、花巻市内には古代から近代までの遺跡や建造物が残っています。各時代の遺物や建築物を通じ、時代ごとに人々がどのように生きてきたのか。花巻市の歴史的・文化的スポット巡りを通じて、歴史の流れを感じることでしょう。
兜跋毘沙門天立像
今から約1200年前、平安時代中期に東北地方を平定した征夷大将軍・坂上田村麻呂が建立したと伝わる成島三熊野神社。境内の毘沙門堂に鎮座しているのが、4.73mもの高さのある「兜跋毘沙門天立像(とばつびしゃもんてんりつぞう)」です。1本のケヤキから掘られた仏様の雄々しく厳粛な姿は、見るものを圧倒。毎年5月には、力士が抱いた赤ちゃんが泣き声を競い、成長を祈願する「毘沙門まつり・全国泣き相撲大会」が開催されています。
円万寺 観音堂
標高180mほどの高台から、水田地帯を望む展望スポットとしても人気の「円万寺 観音堂」。寺から望む風景の美しさは「花巻八景」の一つです。その円万寺には、平安時代の征夷大将軍・坂上田村麻呂が、憤怒の菩薩「馬頭観音」をお迎えしたことが起源と伝わっています。ちなみに観音堂にある馬の藁人形「忍び駒」は、馬を縁結びや家庭円満を運ぶ使者にたとえたもので、昔から思いを叶えたい人が忍び駒を観音堂に納めてきました。恋愛成就を願う人は、その御利益にあやかってみては。
花巻城跡
花巻市の中心に位置する「花巻城跡」は、かつてこの地を支配した南部氏の居城跡です。花巻市は、街自体が険しい山に囲まれた土地。加えて城の東には北上川が、南には北上川の支流が流れる「攻めるに難く、守るにはたやすい」地のため、地元で花巻城は「堅牢な城」として知られています。現在は復元された西御門の見学や、本丸跡を整備した公園で休憩が可能です。
花巻市博物館
歴史的に価値ある物を展示するだけでなく、講座や体験学習会に参加し、楽しみながら学べる参加型の博物館です。古くは縄文時代の住居や古墳、江戸時代の城下町の様子など、花巻の歴史や文化、人々の暮らしを紹介。縄文時代から中世、近代までの歴史を学ぶだけでなく、花巻人形や焼き物などの工芸品も展示。花巻が生んだ芸術に触れることもできます。
同心屋敷
市の文化財指定、江戸末期・藩政時代の武家屋敷です。「同心屋敷」には、この地方を治めていた武将・浅野長政の一隊である花巻同心組の人々が暮らしていました。この住居は江戸時代の盛岡藩に多く見られた、間取りがL字形またはコの字形の「曲がり家形式」と呼ばれています。事前に問合せをすれば建物内の見学が可能、当時の人々の暮らしを肌で感じられます。茶湯のサービスを縁側で楽しみながら、江戸時代の雰囲気を味わってみませんか。
旧小原家住宅
18世紀中ごろの建築と推測される「旧小原家住宅」は、当時の一般的な農家の暮らしを今に残す建物です。国指定重要文化財に指定されており、もとは長方形の「直家」でしたが、後にL字型の「曲がり家」に改築した痕跡が残っています。「旧小原家住宅」の大きな特徴は、奈良時代から馬の産地だった岩手で、人馬が屋根の下で暮らした家「南部曲がり家」の発祥を知る手がかりになっている点。家畜を家族のように大切に育て、ともに生きた農民の暮らしを肌で感じられるこのスポットを、先に紹介した「同人屋敷」と比べることで、武家と農家の生活の違いを探してみるのも面白いですよ。
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