常設展示室「映画の生まれる場所(ところ)」を徹底解説
三鷹の森ジブリ美術館の常設展示のひとつが、「映画の生まれる場所」と題された5つの小さな部屋です。部屋を通り抜けると、湧き上がったアイデアが、悪戦苦闘の作業を経て1本のアニメーション映画として誕生する過程を体験することができます。
最初の部屋は、「お爺さんから譲り受けた部屋」をイメージした「映画がはじまる所」。空想や予感から生まれたイメージの断片が、映画の核となるアイデアとして見えてくる空間を想定しています。
古い図鑑や模型、モノ作りのための工具など、物語のきっかけとなる品々で満たされています。部屋の持ち主の少年は、きっとこの部屋で映画のイメージを形にするのでしょう。
壁一面に貼り込まれているのは、スタジオジブリ作品のイメージボードです。イメージボードとは、監督の頭の中に生まれた作品のイメージを絵にしたアイデアスケッチのこと。
実際の作品づくりの中で描いてきた壁一面に張り巡らされた絵の中に、大好きな作品の思い出のシーンの絵も見つかるかもしれません。
2つ目の部屋は、「世界をつくる所」。「映画の品(ひん)は美術できまります。」という宮崎駿名誉館主の言葉が添えられたこの部屋の住人は、背景画を描く少女のようです。
誰かが絵を描いていたかのような机の上には、色とりどりの画材や使い込まれた絵筆が。壁にはみずみずしい樹木や雄大な景色など、アニメーション映画の背景となる絵が飾られています。
第3の部屋は「もの語る所」。アニメーション映画の演出家が住人のようです。4コマ漫画のような髪は「絵コンテ」と呼ばれ、アニメーションの設計図のようなものだそうです。
4つ目の部屋には絵コンテが展示されています。「絵コンテは監督の仕事の中でももっとも大切なもののひとつ」という、宮崎駿名誉館主直筆の解説が展示されており、キャラクターの表情やセリフをはじめ、背景などがきめ細やかに表現されていることがわかります。
最後の部屋は「作画室」。実際に映画になる絵を描く部門で、一番スタッフの多い部屋。作画で大切なのは、「生命への愛情を持ち、人の動きや物をよく理解すること」なのだそうです。
鉛筆で描いた輪郭は、トレス作業で透明なセルに移され、セルの裏側から慎重に色絵の具を重ねる彩色を経て、撮影される工程が展示されています。
カメラと撮影スタンドを使い、背景画とキャラクターを合成する撮影を体験できる展示も。ハンドルを動かし、気球が海岸線を飛んでいく様子を見ると「絵が動いた!」という感動を味わうことができます。
撮影したフイルムは、編集作業によってつなぎ合わされます。その後セリフなどを録音されて映画は完成します。
多くの人が力を尽くして生み出されるアニメーション作品。この展示を観終えると、アニメーション映画を新鮮な目線で見ることができそうな気にさせてくれます。
小さな映画館「土星座」
地下1階にある小さな映画館の「土星座」。ここでしか観ることのできないスタジオジブリのオリジナル短編アニメーションや、良質なアニメーション作品を上映しています。
天井には青空が、壁には色とりどりの草花が描かれ、映画が終わると窓が開いて日の光が射し込みます。
最新作『劇場版 アーヤと魔女』企画展開催中!
会期:2021年5月29日(土)~2022年5月(予定)
ジブリ美術館では現在、2021年8月から全国でロードショー公開されている、スタジオジブリの新作長編アニメーション映画『アーヤと魔女』に関する企画展示を行っています。
宮崎駿氏が企画し、宮崎吾朗氏が監督を務める『アーヤと魔女』は、スタジオジブリが初めて挑むフル3DCGアニメーション映画。原作は『ハウルの動く城』の原作でも知られるファンタジー作家のダイアナ・ウィン・ジョーンズの同名児童文学です。
舞台は1990年代のイギリス。自分が魔女の娘だとは知らずに育ったアーヤが、ベラ・ヤーガと名乗るド派手な女とマンドレークという長身の怪しげな2人と暮らす事になるというお話。
これまでもスタジオ・ジブリはCG(コンピュータグラフィックス)を作品作りに活用するなど、新しい表現に挑戦してきましたが、フル3DCGは初の試みです。絵をコンピュータで動かす2DCGと異なり、3DCGでは、コンピュータで作ったキャラクターを映像化する手法なのだとか。
展示は宮崎吾朗監督自身によって企画・監修されたもので、次世代の技術である3DCGによる『アーヤと魔女』の制作過程を紹介。“キャラクターを作り”“動かし”“表情をつける”工程など、3DCGの魅力を丁寧に解説してくれます。
宮崎吾朗監督によると、「実際に作ってみたら、手描きアニメと同じでめちゃくちゃアナログで人間的な作業が重要だった」とのこと。コンピュータが発達しても、アニメーションには人の手による作業が大切だということを、改めて教えてくれる作品に仕上がっているようです。