【あそびチャレンジ#06 ホーストレッキング編】
優しい瞳をした馬といっしょに、風や草木の香り、清流のせせらぎを感じられるホーストレッキング。その体験はもとより、動物に寄り添う心を育めることも乗馬の魅力です。今回、ホーストレッキングに挑戦するのは秋山たからちゃん9歳。
全身こんがりと日焼けしたたからちゃんは、自然の中で遊ぶのが大好き。今年の夏は八丈島でシュノーケリングにも初挑戦し、ウミガメとの出会いに感激したそう。大きな馬に乗るのは、まだ物心がついていないころにお母さんといっしょに体験して以来。たからちゃんはそのときのことを覚えていないそうで、本人の気分的に本格的な乗馬は今回が初挑戦なんです。
「映画『トイ・ストーリー』に登場するジェシーとブルズアイの関係に憧れがあって。最近も『大きな馬に乗ってみたい!』とよく言っていたんです」とお母さん。「ママだって乗りたいって言ってたじゃん!」と横でおどけて見せるたからちゃんですが、ホーストレッキングの話をすると、「やるやる!絶対やる!やったあ!」と大喜びだったそうです。
東京でもホーストレッキングができるのにビックリ!
当日たからちゃん親子が向かった先は、東京・日野市にある「マリヤの風」。メス馬の「マリヤ」が暮らす住宅地を抜けて、多摩川の支流である浅川河川敷をおよそ90分、乗馬体験をしながら散策する体験ツアーを開催しています。5歳以上は、子供用の小さな鞍をつけたマリヤにひとりで乗馬。手綱を持って馬を誘導することからはじめ、マリヤとの対話を楽しみながら自然を肌で感じられる、人気のツアーです。
マリヤは小柄なほうですが、たからちゃんにとっては大きな馬。目の前にすると「かわいい~」とは言いながらも、その迫力に圧倒され顔がちょっぴり引きつっちゃいます。ツアーガイドも務める「マリヤの風」のオーナー・山崎さんに「あげてごらん」とにんじんを手渡されるも、マリヤの顔がぬっと近づくと「ひゃっ!」と小さな悲鳴を上げてぽとりと手から落としてしまいました。
マリヤのにんじんタイムが終わると、いよいよ乗馬スタートです。最初は「怖い…」とつぶやきながら不安そうな顔を見せますが、「大丈夫よ。マリヤはとってもお利口だから。さあ乗りましょう」というガイドの声を聞いて、たからちゃんはサッとマリヤの背中に乗ることに成功! 少し心配そうにしていたお母さんも「おお、すごいじゃん!」とうれしそうに声をかけます。
鐙の長さを調整したら、マリヤを誘導するための手綱の使い方や「進め」と「止まれ」の方法について指導を受け、いざ出発です。馬にはお腹を軽く蹴って出発の合図を送りますが、たからちゃんは緊張の面持ちで、遠慮がちにポンポンポン。優しいキックにマリヤはまったく動こうとしません。
蹴る力の塩梅がつかめずに困惑するたからちゃんを見たガイドは「慣れるまでは先導するね」とすかさずサポート、ガイドの後を追うようにマリヤは歩きはじめます。「怖い、怖い」と小さな声だけがもれるたからちゃんに、お母さんが励ましの声をかけていました。
たからちゃんの表情は硬いまま馬に乗って10分ほど住宅街を進んで行くと、浅川河川敷に到着。草が生い茂り、そこかしこでバッタが跳び跳ねる小道をマリヤに乗って進みます。しかし、ここで問題が! あちらこちらに生えている瑞々しい草は、マリヤの大好物。隙あらば立ち止まって、むしゃりむしゃりと食べはじめます。「草と反対方向に手綱を引いて歩かせましょう」とガイドから声がかかりますが、「動かな~い。進んで、進んで!」とたからちゃんは四苦八苦。
後を歩いてついていたお母さんがサポートに入りますが、手綱を引く方向がうまくつかめず、親子で苦戦してしまいます。その間も、マリヤは草をもしゃもしゃ。でも、かえってそのことで決心がついたのでしょうか。「ママ、もう私に任せて!」と言った直後から、たからちゃんは目覚ましい成長を見せていきます。
馬をコントロールできるようになると乗馬の楽しさが倍増!
頻繁に立ち止まっては草を食べはじめるマリヤを、たからちゃんは徐々にコントロールできるようになっていきます。「ダ~メ!」と言いながら手綱を上手に扱い、マリヤに道草をさせないようにしながら前進。それでも立ち止まってしまうと、態勢を立て直し、絶妙な加減でお腹を蹴って再出発!一度の合図でマリヤもちゃんと歩き出すようになりました。
「怖い」から「ちゃんとしないと!」というたからちゃんの気持ちの変化が、マリヤにも伝わったのがわかります。一番の難関とされる急な凸凹道も、大きく揺れる馬の体の上で、ひるむことなくバランスを取りながら下って、そして登り切りました。不安がにじんでいたたからちゃんの表情は、みるみるキリッとしたものへと変わっていきます。
折り返し地点でもあり、馬に乗って川を渡るというより特別な経験ができるスポットに到着。川の中でマリヤが足裏を傷めてしまわないよう、川岸で靴を履かせます。たからちゃんはひょいっと身軽に降りて、マリヤの顔を覗き込みながら「あなた、まつげがあるのね」と一言。いつの間にか怖さはなくなり、もうすっかり仲良しです。
※季節やツアーによって乗馬ルートの内容は随時変わります。浅川へ行くのは90分コース(8月中くらいまで)です。
そしてマリヤの首をなでると、手のひらを見ながら今度は「わ、すごい毛が抜けてる!」と目を丸くします。乗り物ではなく、相手は生きた動物であることをもっとも実感する瞬間だったかもしれません。
「馬のヒヅメは固いけれど、それ以外の足裏はやわらかいのよ。だから靴を履かせるの」とガイドが披露する豆知識に、「へ~!」と驚きの声をあげるたからちゃん。マリヤの準備が整うと、最初のときとは見まがうほど堂々と、自信にあふれた様子でマリヤに乗ります。
バシャバシャと音を立てながらゆっくりと川の中へ。長靴をはいたお母さんもいっしょに、中洲の観察をしたり、清流の音に耳を傾けたり。「ああ気持ちいい! すごいすごい」と表情はすっかり明るく、心から楽しんでいるたからちゃんの姿がありました。「たから、こっち見て!」とスマホを構えるお母さん。ホーストレッキングの山場ともいえる川遊びでは、しっかり記念撮影も楽しんじゃいます。
帰り道では、ガイドの提案でお母さんもちょっとだけ乗馬に挑戦。交代することになったたからちゃんは「え~私まだ乗っていたいのに!」とちょっぴり膨れ顔でしたが、乗り方に戸惑うお母さんを見てニッコリ。「仕方ないな~。しっかりつかまって、ここに足を通して…」と、すっかり先輩気取りでお母さんに乗馬を教えます。
※お母さんと交代で乗る、兄弟で交代で乗るなど1ツアーで2人以上が乗馬できるのはの90分コースのみになります。
さらに、「うわ~、思ったより高くてドキドキする!たから、よく乗れたね~!」と、ぎこちなく手綱を扱うお母さんに、たからちゃんは「ストップは両方の手綱を引くんだよ」、「もう少し短く持って」などのアドバイスも。なかなか上手くいかないと「お母さんへたっぴ!ゼロ点!」といたずらな野次を飛ばします。馬をコントロールする難しさを実感したお母さんは「たからすごいね。たからのほうがずっと上手だよ」と、しみじみたからちゃんに関心しているようでした。
最後は再びたからちゃんがマリヤに乗って、住宅街へと戻ってきました。何台かの車とすれ違う道中、たからちゃんは上手にマリヤを脇に寄せては止まり、安全第一でゴールへと向かいます。そうしていよいよ終わりが近くなってくると、名残惜しさを感じはじめたたからちゃん。「また来るよね? また来たい!」「もう1回やる!」と繰り返しお母さんに訴えます。
無事に「マリヤの風」に戻って来て、ホーストレッキングは終了です。「子どもの上達の速さに改めて驚かされる思いでした。やっぱり大人とは違うなって。最初は正直ヒヤヒヤしていましたが、乗り降りもすごくしっかりできるようになっていて、関心しました」とお母さん。
そんなお母さんの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべたたからちゃん。「ねぇねぇ、このままマリヤに乗って家に帰りたい~」と乗馬がすごく気に入ったようです。「でもね、実は終わってちょっとホッとしたかも…マリヤはかわいくて大好きになったけど、人間の大人より背が高いし、まだ少しだけ怖いって気持ちもあるんだよね」と、正直な気持ちも話してくれました。
意志を持った自分とは異なる動物と協力しながら、自然の中を進んでいく。うまくいったりいかなかったり、スリルを味わったり穏やかな気持ちになったりしながら、ひたすらマリヤと向き合った90分。まるで冒険のようなシンデレラタイムが、ふだんは眠っている強さや勇気を、目覚めさせていたのかもしれませんね。
経験がない子どもでも、自ら手綱を握り、馬と対話をしながら自然散策できるホーストレッキング。親子で忘れられない体験に、きっとなりますよ!
家に帰ってもマリヤと過ごした楽しい時間が忘れられないたからちゃんは、思い出を絵で残すことに。たからちゃんが差し出したニンジンを食べたそうに見つめるマリヤのやさしい表情がいいですね。
夏休みの最高の思い出ができたたからちゃん。絵ハガキをイメージしたイラストで、マリヤとガイドの山崎さんへ「ありがとう」の気持ちを伝えます。最初はマリヤに近づくのを怖がるシーンもありましたが、すっかり慣れて、こまかいところまで観察していたみたいですね。
<文=川本央子 写真=恩田拓治>
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